稲穂健市氏の『世界は知財でできている』(講談社現代新書)を読み、第一章「生成AIが揺さぶる『知財』」から大切なポイントを学びました。創作活動に生成AIを取り入れるとき、AIは人間の創作的表現を具現化する道具として用いることが重要であるという視点です。ここでは、創作活動に安心してAIを活用できるように、文化庁の公開資料に基づく考え方と、実務で役立つ内容を整理します。
文化庁の見解──「道具としてのAI」
文化庁は、AI生成物の著作物性を判断する際の基本を示しています。その要点は、人が自らの思想や感情を表現するためにAIを道具として使ったと言えるかどうかです。該当箇所を引用します。
「人がAIを『道具』として使用したといえるか否かは、人の『創作意図』があるか、及び、人が『創作的寄与』と認められる行為を行ったか、によって判断されます。」
この枠組みは、AIが自律的に出した結果だけではなく、人がどのように関与して表現へ到達したかを重視します。言い換えると、AIを筆やカメラのように位置付け、どのような表現に到達したいかとそこへ到達するために何をしたかを説明できることが要点になります。
「創作意図」とは
創作意図とは、思想または感情を、一定の結果物として表現しようとする意思です。ここで求められるのは過度に難解な宣言ではありません。例えば「社会問題をユーモアで可視化したい」「静謐さを感じる風景を作りたい」など、どのような表現を目指すのかが言語化できていれば十分です。制作メモに目的や狙いを書き留めておくと、後の説明が明確になります。
「創作的寄与」とは
創作的寄与とは、人の関与のうち、単なる作業を越えて表現の個性に結びつく寄与です。文化庁資料では、次のような要素が総合的に考慮されると整理されています。
- 指示・入力の内容:構図、視点、光、配色、様式、象徴性、テキスト要素など、表現に踏み込む具体的で詳細な指示。
- 試行と修正:生成結果を確認し、狙いに近づくようプロンプトやパラメータを調整して反復すること。
- 選択:複数の生成物から、意図に合致するものを選び、理由を説明できること。
- 加筆・編集:レタッチ、合成、トリミング、色調整、タイポグラフィ調整など、人の手で新たな創作的表現を付与する行為。
これらは積み重ねとして評価されます。単に回数が多いことより、表現の方向性を定めて近づけるための意味ある反復が大事です。
実務で証跡を残す
道具としてのAI利用を明確にするために、制作の記録をおすすめします。特別な仕組みでなくても構いません。日常のワークフローに沿って、次を残しておくと説明可能性が高まります。
- 目的メモ:作品の狙い、伝えたいこと、想定する受け手。
- 指示の履歴:プロンプト、ネガティブプロンプト、モデル名、主要パラメータの変遷。
- 試行の記録:どこをどう直したか、どの選択が意図に合致したかの簡単なメモ。
- 編集工程:レタッチや合成のレイヤー名、調整理由、使用したソフト名など。
- 素材の来歴:自作素材、パブリックドメイン、ライセンス素材の別と入手先。
この程度でも、意図と寄与の道筋が見えるようになります。チーム制作では、同じ様式で共有すると説明が統一されて運用しやすくなります。
既存作品との類似性と依拠性を避ける
AI生成物が著作物に該当するかどうかと、既存の著作物の権利を侵害するかどうかは別の問題です。創作の自由を保ちながら、次のポイントに気を配ると安心です。
- リファレンスの扱い:参考資料は表現の方向を確認するために用い、具体的な表現の写し込みは避けます。
- 独自要素の強化:モチーフ、構図、象徴、配色、テキストの選択など、自分の解釈と判断を強めます。
- 入力の工夫:特定作品の模倣を目的とする指示は行わず、テーマや感情、ストーリー展開など自分の言葉で表現に落とし込みます。
- 確認プロセス:完成前に、参考にした作品や資料と並べて確認し、表現が自立しているかを点検します。
これらは、AIの利用とは別に、創作活動の基本です。
制作フローの具体例──意図から表現へ
たとえば社会テーマの風刺絵を作るとします。次のような手順で、意図と寄与を重ねます。
- 意図の言語化:伝えたいメッセージ、感情トーン、読者像を短文でメモします。
- 表現設計:主役の配置、視点、動き、象徴、様式(木版調、インフォグラフィック調など)を箇条書きで整理します。
- 初期生成:具体的プロンプトで数案を出し、構図や象徴が意図に近いものを選びます。
- 反復と修正:選んだ案について、光やポーズ、視線、余白、キャプションなどを調整しながら反復します。
- 編集と仕上げ:レタッチ、タイポグラフィ、トーン調整を行い、全体のリズムを整えます。
- 記録:採否と理由、編集の要点を一言ずつ残し、完成版と一緒に保存します。
この流れを繰り返せば、AIは発想を形にする頼れるアシスタントになってくれます。
安心して一歩を踏み出すために
生成AIは、私たちの創作を拡張する道具です。結局のところ大切なのは、
- 目指す表現を意図として言語化すること。
- 具体的な指示、反復、選択、加筆という寄与を重ねること。
- 制作の道筋を記録して説明可能にすること。
- 参考資料とは健全な距離を保ち、自分の表現を磨くこと。
この四点であり、創作活動の基本を押さえていれば、AI活用はずっと身近になります。創作の現場で試行錯誤を共有し、みんなでうまく使っていきましょう。


