【コラム】AIに社会を合わせるとき、何を残さなければならないのか

コラム

日本のAI政策が、新しい段階へ進もうとしています。

2026年10月2日、内閣府は、デジタル庁、経済産業省と連携し、AIの社会実装を妨げている、または導入効果を弱めている規制・制度について、具体的な情報を募集すると発表しました。

募集期間は10月19日から30日17時まで。対象は法律や政省令だけでなく、規則、告示、通知・通達などにも及びます。LLM、マルチモーダルAI、エージェントAIに加え、AIロボット、完全無人運転、AIドローンなどのフィジカルAIも明示されています。

これは単なる「規制緩和の募集」ではありません。AIを現在の制度へ当てはめるだけでなく、AIの存在を前提に制度や社会の仕組みを見直す動きだと読むことができます。

「AIをどう使うか」から「制度をどう作り直すか」へ

これまでのAI政策では、主に二つの方向が注目されてきました。

一つは、AIを安全に利用するためのルールやガバナンスです。もう一つは、計算資源、モデル、データ、人材など、AIを開発・活用する基盤の整備です。

今回の取組では、そこに第三の方向が加わります。

それは、既存の制度そのものを、AIを活用できるよう見直すことです。

政府は、2026年7月14日に閣議決定された人工知能基本計画を踏まえ、単にAIを導入するだけでなく、意思決定や業務の進め方を根底から見直す「AX」に取り組み、AIを前提とした制度や社会の仕組みへ継続的に変革する方針を示しています。今回集められる事例は、規制改革推進会議の審議だけでなく、人工知能基本計画の改定や、府省庁横断の規制・ルール整備にも活用される予定です。

人による確認は、単なる障害なのか

AI導入を進める立場から見れば、「人が確認すること」を義務づけた制度は、時間と費用のかかる障害に見える場合があります。AIが高い精度で処理できるなら、人の確認を減らすことで、業務は速くなるでしょう。

しかし、その確認は本当に無駄なのでしょうか。

人による確認が、安全を守るために設けられたのかもしれません。判断の責任者を明らかにするためかもしれません。弱い立場の人が異議を申し立てる機会を確保するためかもしれません。

制度を見直すときに重要なのは、「AI導入の障害だから削除する」という発想だけではありません。その制度が何を守ってきたのかを特定し、その価値をAI時代にふさわしい方法で再実装することです。

社会的アライメントという視点

技術的アライメントは、AIの振る舞いを人間の意図や価値に合わせる課題です。一方、社会的アライメントは、AIを導入する社会の側が、何を守り、誰に権限を持たせ、誰が責任を負うかを整える課題だと考えられます。

AIを前提に制度を変えるなら、少なくとも次の点を問い直す必要があります。

  • AIへ委任してよい判断と、人間が保持すべき判断は何か
  • AIの判断を誰が検証し、止め、やり直せるのか
  • 自動化された判断に対して異議を申し立てられるか
  • 誤りや被害が生じたとき、誰が説明し、救済するのか
  • 効率化によって失われる知識、技能、関係性はないか
  • AIを使わない選択や、人による判断へ戻す道が残されているか

形式的にHuman-in-the-loopを置くだけでは不十分です。人に必要な情報、時間、専門性、権限がなければ、確認はAIの判断を追認する儀式になってしまいます。

規制改革を、価値の再設計にする

規制は、時代遅れになることがあります。新しい技術の利用を不必要に妨げ、社会の利益を損なう場合もあります。だからこそ、具体的な現場の障害を集め、制度を点検する今回の取組には大きな意義があります。

同時に、改革の評価軸を効率や導入件数だけにしてはなりません。安全、権利、責任、透明性、異議申立て、救済といった価値が、見直し後の制度でどう確保されるのかを示す必要があります。

AIに合わせて社会を変えること自体が目的ではありません。AIの便益を生かしながら、人間が目的を決め、判断を検証し、必要なら委任を取り戻せる社会をつくることが目的です。

今回の情報募集は、その設計を始める具体的な機会です。「どの規制をなくすか」だけでなく、「その規制が守っていた価値を、これからどのように守るか」。この二つを同時に問うことが、AI時代の規制改革には欠かせません。

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